「明日は朝、解放してやる。寒くない格好をして早い時間に出て来い。旅は中止」
そんなメールが舞い込んで、あたしは慌てた。
旅の中止で慌てたわけではない。
なにか予定の変更があったんだろう。(ちなみに「旅」と言われ、いつもの荷物の他に鞄に突っ込んだ物は、クルクルドライヤーだった・笑)
しかし「寒くない格好」とは・・・わざわざ主が、そんなことを気遣ってくれるだなんて、一体どこへ行くのだろう?どんな服着るべき?ああ、支度中の構想変更は大慌てだ。
----------
「ミニじゃなくてもいいんですか?」寒くない格好のビジョンがどうしても湧かなかったので、質問した。どうしたって、ミニは寒い。
「ミニはミニだ。膝上で許してやる。タイツでも履いてこい」
タイツ!!
主のタイツ許可・・あり得ない・・それって、どんな場所を想定しているんだろう(普段はブーツもタイツも禁止なのです)。
何処に行くのかわからないまま、東京駅で待ち合わせた主が無言のまま歩き電車に乗る、そのあとをついていくと・・・辿り着いたのは、なんと、舞浜駅だった。
東京ディズニーリゾート・・・・?マジで・・・・・?目の前がグルグルする。
完全に想定外の場所。
「仕事のチェックですか?」あたしは聞いた。こっち関係の仕事もなさったことがあると、聞きかじったことがある。
「いや、TDSに奴隷をいたぶりに来た」
・・・・仕事ではなく、あたしを連れてきてくださった・・・・。
その瞬間、あたしは・・完璧に浮き足立った。
今までいろんなことを主としてきたつもりだけれど、これほど「どうしたらいいか、わからない」と思ったことはない。
主からの形のある愛が欲しいと切望していたときですら、「デート」をしたいと望んだことはなかったからだ。
ディナーはもちろん、ランチすらしたことがない・・・あ、思えば「お茶」もしたことがない。
30分の時間があれば、性処理だけして帰されていた。あたしはそれで満足してた。いってみれば、ずっとそういう関係だったのだ。
そんな主とあたしが、TDS??
どうしよう・・・嬉しい反面、どう振る舞っていいか、まったく、本当にまったくわからない。
少なくとも「あ、クリスマスイルミネーション!!主様、写真写真!まず、エントランスで写真ですよ!あ、お兄さん、シャッター押して頂けますか?」ってな感じに切り替えることをしてはいけない・・というくらいしか、わからなかった。
寒くない格好をしろと指示してくれてまで気遣ってくれた主・・タイツもちゃんと履いてきた。ロングコートを着てきた。スカートは膝上10センチの厚手のウールタイト。露出目当てで来たわけではない。主は「いたぶりに来た」と仰ったけれど、もしそうならそれなりの格好をさせるはず。
「あの、デートみたいですね」TDSの中を、二人が歩く。
あたしが現実感が乏しいままそう言うと「甘えすぎると、痛い目に遭うぞ。気まぐれだ。奴隷を連れて、TDSを歩きたかっただけだ」主が仰る。
えっ・・やっぱり・・「奴隷を忘れて楽しめ」ではなく、奴隷として横にいる・・・。
やばい、できない。
ここは、あたしにとっての、聖地・・・TDR・・・(ウォルト・ディズニーの大ファンなのです)。
このウキウキとする音楽・・綺麗なイルミネーション・・どこもかしこもツリーだらけ・・ゲストを楽しい気分にさせる場所・・けれども、奴隷は、笑うことも大声を出すこともはしゃぐことも禁じられている。
案の定、ちょっとペラペラしゃべってしまっただけで「煩い」と叱られた。心の中で首を引っ込めながら、途方に暮れた。これは、大変なことになったぞ、と。
あたしの葛藤は、凄まじいものだった。
湧き上がる私利私欲。
夜景にウットリしたいとか、その写真撮りまくりたいとか、グッズチェックしたいとか、売店のお菓子食べたいとか、ミッキーはどこに出没するんだろう?とか、パレード見たいとか、花火見たいとか、とにかく一瞬一瞬ゲストの心を鷲掴みにするよう仕掛けがされてる場所なのだ。
あたしはその罠にはまりまくり、自らなにかを「したい」と、思ってしまう。
もう、あらゆる瞬間に「したい、したい、したい」と、なってしまう(しかもそれを、顔に言葉に出さないように必死だった)。
したいことをさせてもらえないことが、とても辛く感じた。写真を撮るとか、煙草を吸うとか、それを禁じられたことが、重くのしかかる。本当はもっとたくさんいろいろと「したい」と思ってるからだ。
エロ行為抜きのあたしは、すっかりミーハー女になってしまっているのだ。
主は「女」とここに来たかったわけじゃない。奴隷と来たかったんだ。それは、わかってる。
でも、どうしても、女に戻ってしまう。みんながぶら下げてる光る飾りなに?(意味なく)欲しい・・主様、買ってくださらないかな・・そんな風に、奴隷の気持ちを失わせていく(今、書いていて思うけど・・なんて馬鹿馬鹿しい葛藤なんだろう・・でも目の前にしちゃうと切実。もう、可愛い物、キレイな物、光る物がTDSには多すぎる!!というか、女って我ながらホントくだらない・・・)。
せめて軽い露出でもさせて頂ければ、簡単に奴隷に戻れたんだと思う。けれども主はそうなさらなかった。あくまで完全なエロ抜きで、あたしと一緒にいることを、望まれている。それを嬉しいと思う反面、逆に気持がどんどん「女」になっていく。
あたし一人、主とキラキラ光るTDSの狭間で右往左往している。
まるで物欲や性欲を断ち切ろうとしている修行僧のようだ。
どうして「主とここにいる」という、ただそれだけを楽しめないんだ。
どうして「したいことができないこと」を、ストレスに感じてしまうんだ。光る飾りなんてどうでもいいのは(頭で)わかってるのに、目が奪われる。ヒュッ、と心を持っていかれちゃう感じ。子供か、あたしは。
もう、まったく奴隷の仮面が被れない・・・そう、あたしが一番自然な自分だと感じたこともあるその奴隷の姿。それはやはり、一部分でしかないと、思い知らされる。
「奴隷の仮面」と意識してしまうのは、自我がなくならないからだ。真っ白な自分で、主だけを見ていられない。
主とTDS、どっちが大事なんだ?そんなの、考えるまでもなく主に決まってる。
あああ、なのに、なのに、イルミネーションがキレイすぎるんだよ、あああ、惑わされる!!やめてくれ、そのウキウキするクリスマスソング!!闇夜で光るネックレス付けないで、三段スライド式のポップコーン入れ、ぶら下げないで!
最初に「写真を撮りたい」と言ったけど、許可されなかったので撮ってなかったんだけれども、水上の巨大ツリーを見たとき「写真撮りたいです」と、呟いてしまった。
そして、主に叱られる。
「一枚くらいは撮らせてやろうと思ってたのに、二度も言われたら、許可出来ないじゃないか。お前を楽しませるために来ているんじゃない。俺が楽しむために、来てるんだ」と。
それが、あたしから言葉を失わせてしまった。
特に強い希望を持って「写真、絶対撮りたいから、何回でもお願いしてやれ」と思ったわけではない。
素直な気持ち・・・「あ、キレイだから、写真撮りたいな」という気持が、ポロッと漏れてしまっただけなのだ。(それも、ものすごい我慢してしゃべらないでいたうちの・・ほんの少し油断した隙に漏れてしまった一言、という感じだった)
楽しいと、笑ってしまう。しゃべってしまう。油断してしまう。
全部、TDSのせいだ。というか、せっかく主が連れてきてくださったというのに、なんで「この場所」が悪い!と思ってるんだ、あたしは。
あたしはそんな風に・・・夢の世界で唯一人、混乱し続けた。
しゃべるとまた下手を打ってしまうかもしれないので「もう、何一つ言わない」それしか道は、残されていなかった。言葉を選んで話す余裕がなくなっていたからだ(言葉を選ばなければ、確実にまた叱られる。だって、全部欲しいし、したいんだもん・笑)。
奴隷の仮面を中途半端に被ったまま、結局、気持はどんどんと、落ち込んでいく。
TDSでケンカしたカップルは多いだろうが、一人で落ち込んでいくなんて、こんなに馬鹿馬鹿しいことはない。本当に主に申し訳ない。
新宿に帰ってきて、ホテルに向かう途中、あまりに自分の気持ちが沈んでいるのがわかっているので、なんとかしなくちゃと、歩きながら沈黙を一転させ、一生懸命自分の気持ちを話してみた。
そしてまた、盛大に叱られてしまった。それまでのお叱りは普通の「お叱り」だったけど、今度は本当に不愉快になられた様子だった。
「お前の気持ちを俺が聞いて、どうする。そんなことは、どうでもいいことだ。お前はまだ全然わかっていない。お前が奴隷の覚悟をしたというのは、口先だけだ」
・・・言われてみれば、その通り・・・自分で自分の気持ちを立て直そうとか、今の気持を主にわかってもらおうとする必要なんて、全然ないのに。
主はなんの気力もなくなった様子で、ホテルに入ると、ただ黙っていた。
テレビをバチバチ変えながら、室温調節だけあたしに命じ、舐めさせもせず、ビールを飲む主。
主を不愉快にさせてしまったことについては、落ち込まなかった。帰れと言われなかったので、ここに居ていいんだと、わかっていたから。主を不愉快にさせてしまったことを教えて頂き、有り難く思う。
(でもなんだか、帰る場所がここしかなくて、一緒にいるしかない夫婦が無言でテレビ見てるような、そんな光景に見えるかもしれない・・なんてムードだった)
とはいえ・・イルミネーションもクリスマス音楽もない、いつもの世界で、あたしも一緒にお酒を飲ませて頂き、少しずつ気分は落ちついていった。
ものすごく精神的に疲れていたのだと、知った。なんの命令もないことが有り難かった。
本当に個室に二人きりになったら、やっと落ち着けたという感じ・・・。ああ、すごく、ほっとする・・・。自然に奴隷になってる感じ・・・。
主はもしかしたら、あたしを落ちつかせてくれようと、そうしてくださったんだろうか。
「お前は気負いすぎだ」
正確にその言葉を覚えていない・・・だけれども、そのときの主の言葉を聞いて、あたしは泣いてしまった。
とてもスウッと、気が楽になったからだ。
主の言葉を聞いた途端に自分の中で昇華されてその言葉が消えていったように感じた。
だから、このときの言葉をほとんど、覚えていない・・・。
「こ、これは、メソメソ泣いてるんじゃないです・・ええと、感動の涙です・・」こぼれる涙に、言い訳がましいと思いつつ、あたしはそう言った。
「俺がどう思ってるとか、考えるな」そのようなことを、主は二、三言、仰った。
「笑いたかったら、俺から一歩下がって、笑え。今のお前は老けている」
感情を抑えることができなかったあたしは、とにかく「なにも感じない」というやり方でなんとか体裁を取り繕っているつもりだった。でもそうなると生きる屍のようになってしまうんだろう・・。
完璧な奴隷になろうとしていたわけじゃないのに、そんなつもりは自分ではないのに・・「ものすごく意識して」奴隷であろうとすることが、自分を追い込んでいってしまうのだろう。
「はい、主様」・・・あたしはそう言って、涙を拭いた。
あたしが主の言うことを理解してるのかどうかは別として、主に許されていると伝えて頂けたことで、とても安心できたんだと思う。
物欲に惑わされていた僧侶が、仏の顔を見て道を思い出すような感覚・・・(例えが凄いけど、そんな感じでした)。
そのときようやく「TDSに連れて行ってくださって、ありがとうございました」という気持が湧いてきた。今になって、キレイなイルミネーションの中を歩く主に寄り添っているだけで良かったんだな、なんて思ったり。
TDSにいるときはなんだか「苦行」を強いられているような気分になっていたのに。
主がお風呂に入るというので御奉仕させて頂いた。
体を洗う前に背中を見ると、一昨日の傷痕が・・血が滲むまで頑張って付けた傷痕が、一昨日よりもくっきりと真っ赤に浮かび上がっていた。
「雅」と。
「主様、すごい痕になってます(ちょっと興奮するというか、嬉しいというか、不思議な気持ち・・)」
「そうか」興味なさそうに呟いていらした。写真に撮って、ご覧になりますか?と聞こうとしたけれど「あ」と思い、口に出さずに済んだ。
今日主にずっと「俺がしたいことは、俺が全部言う」と、ことごとく叱られ続けてきたのだ。
要はあたしは「主様、すごい痕になってます!見て下さい!(見て欲しい!)」と思ってるわけだ。主がそれを見たいのなら自分でご覧になるだろうし、それを強要してしまって主を不快にさせてしまったんだ。
あたしがご覧になって頂きたいと思っているからって、それを主に言ったら「煩わしい言葉」になる。見たければ主は御自分で命じるはずだ。
と、・・・口にださなかっただけで、あたしはまだ頭で考えている。
傷痕はあまりゴシゴシしないようにして体を洗い終えると、主はまたビールを飲みながら、DVDを見始めた。
舐めていろ、と命令を頂いたのでペニスを舐めさせて頂いた。
ところが・・・「お前は、寝不足だ。寝ろ」突然、主が仰る。
その言葉にハッとした瞬間、自分が寝ていたのだと、知った。
眠いのはわかっていたけれど、何度か意識がなくなったような気がしていたけれど、主にそう言われるほど「眠って」しまっていたとは・・・。
「はい・・・(でも)」
「必要なときは起こす。寝ろ」
「はい」
言われるがまま、あたしは、主の横で、ストンと眠りに落ちていった。
時折、覚醒したけれども、相当の勢いで寝ていたんじゃないかと思う。いびきとか歯ぎしりが煩かったのではないかと恥ずかしく思う。
主が2本目の映画を見終わる頃、ふと見ると・・・テーブルの上には、ビールの空き缶の他にカップ入ったコーヒーがあった。
主がコーヒーを御自分で煎れているのに、気づかなかった?ちょっと考えられない熟睡ぶりだ。
一昨日の疲れが残っているなとは感じていたけど(出かける前から、どうにもこうにも眠かったのは事実だけれど)なにかこう、精神的に、ズドンと疲れてしまっていたんだと思う。
(あるいは、今も頭が痛いから、風邪をひいているのかもしれないけれど)
主は朝の8時過ぎまで時間があると仰っていたけれど「今帰った方が、電車が空いていていいだろう」と、あたしを気遣って下さりホテルを出ることになった。朝の5時過ぎだった。
その前にペニスを舐めさせて頂き、ザーメンをまんこにくださった。性処理に使って頂けると、ホッとする・・・。
帰りにタクシーの中で少しお話をした。主もあたしも普通モードで、とても自然に話ができていたと思う。こんな風に、TDSでも話せればよかったんだ。ただ、横にいるだけで。ぽつりぽつりと、なにかを語る、主の話に、返していくだけで。他のなににも、惑わされずに・・。
「気を付けて帰れ」と、暖かい言葉をかけて頂いた。「ありがとうございます」と、あたしは答えた。
自宅の最寄り駅に着いて、座っていた座席を立ったら、股間からザーメンが流れ出してきた。それを感じながら、あたしは家までの道程を歩き出す。
思えば密室や、飲み屋、あるいは特定の変態社会でしか遊んだことがなかった。
自分が好きな場所に行くと、人格を捨てられないということを、思い知らされた。
万が一だけれども、一緒に海外旅行なんかに行ったら、主そっちのけになってしまうシーンもあるのかもしれない、なんて想像をしてしまったほどだ。
自我を持たないということは、あるシーンでは簡単なのに、こんなに難しいことなんだな・・そもそも意識してやることではなく・・いつでもどこでも(それは、文字通り「どこでも」)主だけを見ていられるようになったとき、自然とそうなっていくことなんだろう。
「俺と同じ物を見ようとしなくていい。同じ方向を向いていろ」ホテルで頂いた、主の言葉。
仮面を被って同じ物を見ようと必死にならなくてもいいんだ・・主が進んでいく先は・・肉体改造とかそういう怖いSMの世界だけじゃなく、とっても暖かい世界なのかもしれない。
そのときの主が、いつも冴え冴えと怖い主が、染み入るような安心感を与えてくれたように。
そんなに肩に力を入れて「頑張ってます!」ってつもりで仕えているとは思ってなかったんだけれども・・・その後の疲れ方を見れば、そうだったのかもしれないと、思う。
気楽にお仕えするわけにはいかないけれど、主が肩の力を抜きたいときは、一緒に抜く(あるいは一歩下がってクスクス笑う)・・・そういうところまで歩いていけたらいいな、と思う。文字通り、横に置いていて頂ける存在になりたい。
仮面じゃない・・主に自然な気持で全部お仕えできる奴隷になれたら、きっととっても健やかな気持になれるんだろうな・・そんなことを、感じた一日だった。
というか・・「写真を撮るなんて、無意味だ。心に刻み込め」と仰っていた主って、すごい。
そんな主の傍に置いていただく資格がないと思ってしまった。主の心は綺麗すぎ、純粋すぎて、自分はすごく汚れているような?
女を捨てきれていないってこと・・まさかTDSで実感するとは思いもよらなかったんだけれども。
いつか、この日の自分が愚かだったな、とクスリと思う日が来るんだろうか。
それとも、この「女」の部分って・・・一生消えないものなんだろうか。
(*注・・TDSでは悩みまくりでしたが、今は悩んでないです、念の為・・葛藤は、馬鹿な奴隷と笑って頂ければと思い、記しました)
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「ミニじゃなくてもいいんですか?」寒くない格好のビジョンがどうしても湧かなかったので、質問した。どうしたって、ミニは寒い。
「ミニはミニだ。膝上で許してやる。タイツでも履いてこい」
タイツ!!
主のタイツ許可・・あり得ない・・それって、どんな場所を想定しているんだろう(普段はブーツもタイツも禁止なのです)。
何処に行くのかわからないまま、東京駅で待ち合わせた主が無言のまま歩き電車に乗る、そのあとをついていくと・・・辿り着いたのは、なんと、舞浜駅だった。
東京ディズニーリゾート・・・・?マジで・・・・・?目の前がグルグルする。
完全に想定外の場所。
「仕事のチェックですか?」あたしは聞いた。こっち関係の仕事もなさったことがあると、聞きかじったことがある。
「いや、TDSに奴隷をいたぶりに来た」
・・・・仕事ではなく、あたしを連れてきてくださった・・・・。
その瞬間、あたしは・・完璧に浮き足立った。
今までいろんなことを主としてきたつもりだけれど、これほど「どうしたらいいか、わからない」と思ったことはない。
主からの形のある愛が欲しいと切望していたときですら、「デート」をしたいと望んだことはなかったからだ。
ディナーはもちろん、ランチすらしたことがない・・・あ、思えば「お茶」もしたことがない。
30分の時間があれば、性処理だけして帰されていた。あたしはそれで満足してた。いってみれば、ずっとそういう関係だったのだ。
そんな主とあたしが、TDS??
どうしよう・・・嬉しい反面、どう振る舞っていいか、まったく、本当にまったくわからない。
少なくとも「あ、クリスマスイルミネーション!!主様、写真写真!まず、エントランスで写真ですよ!あ、お兄さん、シャッター押して頂けますか?」ってな感じに切り替えることをしてはいけない・・というくらいしか、わからなかった。
寒くない格好をしろと指示してくれてまで気遣ってくれた主・・タイツもちゃんと履いてきた。ロングコートを着てきた。スカートは膝上10センチの厚手のウールタイト。露出目当てで来たわけではない。主は「いたぶりに来た」と仰ったけれど、もしそうならそれなりの格好をさせるはず。
「あの、デートみたいですね」TDSの中を、二人が歩く。
あたしが現実感が乏しいままそう言うと「甘えすぎると、痛い目に遭うぞ。気まぐれだ。奴隷を連れて、TDSを歩きたかっただけだ」主が仰る。
えっ・・やっぱり・・「奴隷を忘れて楽しめ」ではなく、奴隷として横にいる・・・。
やばい、できない。
ここは、あたしにとっての、聖地・・・TDR・・・(ウォルト・ディズニーの大ファンなのです)。
このウキウキとする音楽・・綺麗なイルミネーション・・どこもかしこもツリーだらけ・・ゲストを楽しい気分にさせる場所・・けれども、奴隷は、笑うことも大声を出すこともはしゃぐことも禁じられている。
案の定、ちょっとペラペラしゃべってしまっただけで「煩い」と叱られた。心の中で首を引っ込めながら、途方に暮れた。これは、大変なことになったぞ、と。
あたしの葛藤は、凄まじいものだった。
湧き上がる私利私欲。
夜景にウットリしたいとか、その写真撮りまくりたいとか、グッズチェックしたいとか、売店のお菓子食べたいとか、ミッキーはどこに出没するんだろう?とか、パレード見たいとか、花火見たいとか、とにかく一瞬一瞬ゲストの心を鷲掴みにするよう仕掛けがされてる場所なのだ。
あたしはその罠にはまりまくり、自らなにかを「したい」と、思ってしまう。
もう、あらゆる瞬間に「したい、したい、したい」と、なってしまう(しかもそれを、顔に言葉に出さないように必死だった)。
したいことをさせてもらえないことが、とても辛く感じた。写真を撮るとか、煙草を吸うとか、それを禁じられたことが、重くのしかかる。本当はもっとたくさんいろいろと「したい」と思ってるからだ。
エロ行為抜きのあたしは、すっかりミーハー女になってしまっているのだ。
主は「女」とここに来たかったわけじゃない。奴隷と来たかったんだ。それは、わかってる。
でも、どうしても、女に戻ってしまう。みんながぶら下げてる光る飾りなに?(意味なく)欲しい・・主様、買ってくださらないかな・・そんな風に、奴隷の気持ちを失わせていく(今、書いていて思うけど・・なんて馬鹿馬鹿しい葛藤なんだろう・・でも目の前にしちゃうと切実。もう、可愛い物、キレイな物、光る物がTDSには多すぎる!!というか、女って我ながらホントくだらない・・・)。
せめて軽い露出でもさせて頂ければ、簡単に奴隷に戻れたんだと思う。けれども主はそうなさらなかった。あくまで完全なエロ抜きで、あたしと一緒にいることを、望まれている。それを嬉しいと思う反面、逆に気持がどんどん「女」になっていく。
あたし一人、主とキラキラ光るTDSの狭間で右往左往している。
まるで物欲や性欲を断ち切ろうとしている修行僧のようだ。
どうして「主とここにいる」という、ただそれだけを楽しめないんだ。
どうして「したいことができないこと」を、ストレスに感じてしまうんだ。光る飾りなんてどうでもいいのは(頭で)わかってるのに、目が奪われる。ヒュッ、と心を持っていかれちゃう感じ。子供か、あたしは。
もう、まったく奴隷の仮面が被れない・・・そう、あたしが一番自然な自分だと感じたこともあるその奴隷の姿。それはやはり、一部分でしかないと、思い知らされる。
「奴隷の仮面」と意識してしまうのは、自我がなくならないからだ。真っ白な自分で、主だけを見ていられない。
主とTDS、どっちが大事なんだ?そんなの、考えるまでもなく主に決まってる。
あああ、なのに、なのに、イルミネーションがキレイすぎるんだよ、あああ、惑わされる!!やめてくれ、そのウキウキするクリスマスソング!!闇夜で光るネックレス付けないで、三段スライド式のポップコーン入れ、ぶら下げないで!
最初に「写真を撮りたい」と言ったけど、許可されなかったので撮ってなかったんだけれども、水上の巨大ツリーを見たとき「写真撮りたいです」と、呟いてしまった。
そして、主に叱られる。
「一枚くらいは撮らせてやろうと思ってたのに、二度も言われたら、許可出来ないじゃないか。お前を楽しませるために来ているんじゃない。俺が楽しむために、来てるんだ」と。
それが、あたしから言葉を失わせてしまった。
特に強い希望を持って「写真、絶対撮りたいから、何回でもお願いしてやれ」と思ったわけではない。
素直な気持ち・・・「あ、キレイだから、写真撮りたいな」という気持が、ポロッと漏れてしまっただけなのだ。(それも、ものすごい我慢してしゃべらないでいたうちの・・ほんの少し油断した隙に漏れてしまった一言、という感じだった)
楽しいと、笑ってしまう。しゃべってしまう。油断してしまう。
全部、TDSのせいだ。というか、せっかく主が連れてきてくださったというのに、なんで「この場所」が悪い!と思ってるんだ、あたしは。
あたしはそんな風に・・・夢の世界で唯一人、混乱し続けた。
しゃべるとまた下手を打ってしまうかもしれないので「もう、何一つ言わない」それしか道は、残されていなかった。言葉を選んで話す余裕がなくなっていたからだ(言葉を選ばなければ、確実にまた叱られる。だって、全部欲しいし、したいんだもん・笑)。
奴隷の仮面を中途半端に被ったまま、結局、気持はどんどんと、落ち込んでいく。
TDSでケンカしたカップルは多いだろうが、一人で落ち込んでいくなんて、こんなに馬鹿馬鹿しいことはない。本当に主に申し訳ない。
新宿に帰ってきて、ホテルに向かう途中、あまりに自分の気持ちが沈んでいるのがわかっているので、なんとかしなくちゃと、歩きながら沈黙を一転させ、一生懸命自分の気持ちを話してみた。
そしてまた、盛大に叱られてしまった。それまでのお叱りは普通の「お叱り」だったけど、今度は本当に不愉快になられた様子だった。
「お前の気持ちを俺が聞いて、どうする。そんなことは、どうでもいいことだ。お前はまだ全然わかっていない。お前が奴隷の覚悟をしたというのは、口先だけだ」
・・・言われてみれば、その通り・・・自分で自分の気持ちを立て直そうとか、今の気持を主にわかってもらおうとする必要なんて、全然ないのに。
主はなんの気力もなくなった様子で、ホテルに入ると、ただ黙っていた。
テレビをバチバチ変えながら、室温調節だけあたしに命じ、舐めさせもせず、ビールを飲む主。
主を不愉快にさせてしまったことについては、落ち込まなかった。帰れと言われなかったので、ここに居ていいんだと、わかっていたから。主を不愉快にさせてしまったことを教えて頂き、有り難く思う。
(でもなんだか、帰る場所がここしかなくて、一緒にいるしかない夫婦が無言でテレビ見てるような、そんな光景に見えるかもしれない・・なんてムードだった)
とはいえ・・イルミネーションもクリスマス音楽もない、いつもの世界で、あたしも一緒にお酒を飲ませて頂き、少しずつ気分は落ちついていった。
ものすごく精神的に疲れていたのだと、知った。なんの命令もないことが有り難かった。
本当に個室に二人きりになったら、やっと落ち着けたという感じ・・・。ああ、すごく、ほっとする・・・。自然に奴隷になってる感じ・・・。
主はもしかしたら、あたしを落ちつかせてくれようと、そうしてくださったんだろうか。
「お前は気負いすぎだ」
正確にその言葉を覚えていない・・・だけれども、そのときの主の言葉を聞いて、あたしは泣いてしまった。
とてもスウッと、気が楽になったからだ。
主の言葉を聞いた途端に自分の中で昇華されてその言葉が消えていったように感じた。
だから、このときの言葉をほとんど、覚えていない・・・。
「こ、これは、メソメソ泣いてるんじゃないです・・ええと、感動の涙です・・」こぼれる涙に、言い訳がましいと思いつつ、あたしはそう言った。
「俺がどう思ってるとか、考えるな」そのようなことを、主は二、三言、仰った。
「笑いたかったら、俺から一歩下がって、笑え。今のお前は老けている」
感情を抑えることができなかったあたしは、とにかく「なにも感じない」というやり方でなんとか体裁を取り繕っているつもりだった。でもそうなると生きる屍のようになってしまうんだろう・・。
完璧な奴隷になろうとしていたわけじゃないのに、そんなつもりは自分ではないのに・・「ものすごく意識して」奴隷であろうとすることが、自分を追い込んでいってしまうのだろう。
「はい、主様」・・・あたしはそう言って、涙を拭いた。
あたしが主の言うことを理解してるのかどうかは別として、主に許されていると伝えて頂けたことで、とても安心できたんだと思う。
物欲に惑わされていた僧侶が、仏の顔を見て道を思い出すような感覚・・・(例えが凄いけど、そんな感じでした)。
そのときようやく「TDSに連れて行ってくださって、ありがとうございました」という気持が湧いてきた。今になって、キレイなイルミネーションの中を歩く主に寄り添っているだけで良かったんだな、なんて思ったり。
TDSにいるときはなんだか「苦行」を強いられているような気分になっていたのに。
主がお風呂に入るというので御奉仕させて頂いた。
体を洗う前に背中を見ると、一昨日の傷痕が・・血が滲むまで頑張って付けた傷痕が、一昨日よりもくっきりと真っ赤に浮かび上がっていた。
「雅」と。
「主様、すごい痕になってます(ちょっと興奮するというか、嬉しいというか、不思議な気持ち・・)」
「そうか」興味なさそうに呟いていらした。写真に撮って、ご覧になりますか?と聞こうとしたけれど「あ」と思い、口に出さずに済んだ。
今日主にずっと「俺がしたいことは、俺が全部言う」と、ことごとく叱られ続けてきたのだ。
要はあたしは「主様、すごい痕になってます!見て下さい!(見て欲しい!)」と思ってるわけだ。主がそれを見たいのなら自分でご覧になるだろうし、それを強要してしまって主を不快にさせてしまったんだ。
あたしがご覧になって頂きたいと思っているからって、それを主に言ったら「煩わしい言葉」になる。見たければ主は御自分で命じるはずだ。
と、・・・口にださなかっただけで、あたしはまだ頭で考えている。
傷痕はあまりゴシゴシしないようにして体を洗い終えると、主はまたビールを飲みながら、DVDを見始めた。
舐めていろ、と命令を頂いたのでペニスを舐めさせて頂いた。
ところが・・・「お前は、寝不足だ。寝ろ」突然、主が仰る。
その言葉にハッとした瞬間、自分が寝ていたのだと、知った。
眠いのはわかっていたけれど、何度か意識がなくなったような気がしていたけれど、主にそう言われるほど「眠って」しまっていたとは・・・。
「はい・・・(でも)」
「必要なときは起こす。寝ろ」
「はい」
言われるがまま、あたしは、主の横で、ストンと眠りに落ちていった。
時折、覚醒したけれども、相当の勢いで寝ていたんじゃないかと思う。いびきとか歯ぎしりが煩かったのではないかと恥ずかしく思う。
主が2本目の映画を見終わる頃、ふと見ると・・・テーブルの上には、ビールの空き缶の他にカップ入ったコーヒーがあった。
主がコーヒーを御自分で煎れているのに、気づかなかった?ちょっと考えられない熟睡ぶりだ。
一昨日の疲れが残っているなとは感じていたけど(出かける前から、どうにもこうにも眠かったのは事実だけれど)なにかこう、精神的に、ズドンと疲れてしまっていたんだと思う。
(あるいは、今も頭が痛いから、風邪をひいているのかもしれないけれど)
主は朝の8時過ぎまで時間があると仰っていたけれど「今帰った方が、電車が空いていていいだろう」と、あたしを気遣って下さりホテルを出ることになった。朝の5時過ぎだった。
その前にペニスを舐めさせて頂き、ザーメンをまんこにくださった。性処理に使って頂けると、ホッとする・・・。
帰りにタクシーの中で少しお話をした。主もあたしも普通モードで、とても自然に話ができていたと思う。こんな風に、TDSでも話せればよかったんだ。ただ、横にいるだけで。ぽつりぽつりと、なにかを語る、主の話に、返していくだけで。他のなににも、惑わされずに・・。
「気を付けて帰れ」と、暖かい言葉をかけて頂いた。「ありがとうございます」と、あたしは答えた。
自宅の最寄り駅に着いて、座っていた座席を立ったら、股間からザーメンが流れ出してきた。それを感じながら、あたしは家までの道程を歩き出す。
思えば密室や、飲み屋、あるいは特定の変態社会でしか遊んだことがなかった。
自分が好きな場所に行くと、人格を捨てられないということを、思い知らされた。
万が一だけれども、一緒に海外旅行なんかに行ったら、主そっちのけになってしまうシーンもあるのかもしれない、なんて想像をしてしまったほどだ。
自我を持たないということは、あるシーンでは簡単なのに、こんなに難しいことなんだな・・そもそも意識してやることではなく・・いつでもどこでも(それは、文字通り「どこでも」)主だけを見ていられるようになったとき、自然とそうなっていくことなんだろう。
「俺と同じ物を見ようとしなくていい。同じ方向を向いていろ」ホテルで頂いた、主の言葉。
仮面を被って同じ物を見ようと必死にならなくてもいいんだ・・主が進んでいく先は・・肉体改造とかそういう怖いSMの世界だけじゃなく、とっても暖かい世界なのかもしれない。
そのときの主が、いつも冴え冴えと怖い主が、染み入るような安心感を与えてくれたように。
そんなに肩に力を入れて「頑張ってます!」ってつもりで仕えているとは思ってなかったんだけれども・・・その後の疲れ方を見れば、そうだったのかもしれないと、思う。
気楽にお仕えするわけにはいかないけれど、主が肩の力を抜きたいときは、一緒に抜く(あるいは一歩下がってクスクス笑う)・・・そういうところまで歩いていけたらいいな、と思う。文字通り、横に置いていて頂ける存在になりたい。
仮面じゃない・・主に自然な気持で全部お仕えできる奴隷になれたら、きっととっても健やかな気持になれるんだろうな・・そんなことを、感じた一日だった。
というか・・「写真を撮るなんて、無意味だ。心に刻み込め」と仰っていた主って、すごい。
そんな主の傍に置いていただく資格がないと思ってしまった。主の心は綺麗すぎ、純粋すぎて、自分はすごく汚れているような?
女を捨てきれていないってこと・・まさかTDSで実感するとは思いもよらなかったんだけれども。
いつか、この日の自分が愚かだったな、とクスリと思う日が来るんだろうか。
それとも、この「女」の部分って・・・一生消えないものなんだろうか。
(*注・・TDSでは悩みまくりでしたが、今は悩んでないです、念の為・・葛藤は、馬鹿な奴隷と笑って頂ければと思い、記しました)
★アダルト検索一発サーチ
でもTDSで笑わないで居るってのは、すごく苦行だったかと思います。